入選 火曜日の朝

大薮町 寺田すゑ子


歩道の角(かど)っこを覆う 青いシートが
いつしか 小高い山となり
登校児童の列が その山の分だけ
車道に 食み出して行く
早春の朝

水曜日は燃やせない ビニール袋
きょう火曜日と金曜日は 紙袋 の
この辺りの ゴミ達には
未だに 待合室がなくて
青いシートの下 身を寄せ息を詰めている
なんとも ださい光景だが
シート一枚で
燃やせるゴミ出しの朝の
平静が 保たれてもいて

無防備だった頃のこと
鰻上りの気温の中 収集車を待つ間
鳥がつっつき猫がひっかき 穿(うが)り漁ってた
生ゴミ袋の 饐えた腸(はらわた)に
舌打ちし 顰(しか)めっ面背けたけれど
鳥や猫に 曝(さら)け出された見るに堪えないもの
それは紛れもない 飽満な生活(くらし)の恥部で

紙屑・籾殻・剪定の枝・枯れ落ち葉など
竃(くど)に焼べりゃ どれもきれいな炎となり
ご飯が炊けたよ 風呂も沸いたよ
魚の骨・芋の皮・卵の殻・林檎の芯さえ
土に還せば みんな無駄なく
田畑を肥やしたよ 作物は育ったよ
・・・・・・・と 身罷(まか)った懐かしい声が
光仄(ほの)めく空の彼方から
頻(しき)りに注ぐ一時(ひととき)

収集車が来て 大口(おおぐち)開(あ)けて
次から次 放り込まれるままに
鵜飼いの鵜のように 飲みこんでった

今朝のゴミは やがて吐かれたら
どんな風(ふう)に燃え 果てるのだろう


(評)
誰もが味わっているリッチ日本の醜態に取り組んだ作者のまじめさを喜びますが,詩になりにくいテーマなので固くなります。読者を疲れさせないためには視角を変え,文体を変える工夫もしてみてください。


戻る