入選 結婚記念日

南川瀬町 谷敏子


星の流れる七夕の夜
天の川では 彦星と織姫が年に一度の
逢瀬を楽しむというのに
ささいな事から夫のもとを去り
私は 幼児を連れて実家にいました
憎しみながらも 憎しみきれない夫のことを
心の奥深くかくして
座る場所のない食卓の前にいました

その夜 皆の寝静まったあと 庭の七夕竹に
まっかな短冊を結びました
 「コウイチのバカ」
赤い短冊のバカの字は 風に吹かれて
いつまでもくるくる廻っていました

その頃の愛の神様は粋な方で
人間の言葉の裏を汲みとって下さいました
から
私と夫とは再びめぐりあい
幼かった子供はもう二人の子の母親です

今宵は
星のじゅうたんが天まで昇りつめるかと思う
ほど 大気が澄んで美しい七夕です
今年の短冊に
私はもう夫のことをバカとはかけません
此頃の愛の神様は
年をとられて粋な心をきっと
忘れておしましになったに違い
ありませんもの

今日は 三十五回目の結婚記念日
二人で 乾杯


(評)
愛の神様が粋であったり,粋でなくなったりするという。もともと心に余裕のある作者だと思いますから,その心が受けとったものをどんどん書いてみてください。


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