入選 結婚記念日

古沢町 松本みつ子


おおーい皆んな起きろよ
今日も暑そうだぞ
それにしても此の家(や)の親爺(おやじ)さん
早よう逝ってしもうたなあ
あれから二十年余り
俺達は積み重ねられ
軒下に置き放し
親爺さん元気な時代は
菊の苗を丁寧に植えてくれて
立派に育ててくれた
菊花展にはお城の下まで
リヤカーに乗せて連れて行ってくれた
葭簣(よしず)に囲まれ紅白の幕が張られた中に
並べて置いてくれた
朝晩会いに来てくれて
水をかけてくれたり時々薬もくれた
満開近くになった日に
審査があってどきどきしたよ
えらい人が多くさん来て
会長らしい人が
金賞の札を俺の菊の首に吊り下げた
うれしかったが照れたよ
だって皆んなの目がこっちばかり見ていたよ
ああ!!昔むかしの話やなあ
俺達の鉢又使ってくれる事あるやろか
出番の来る迄
我慢 我慢の毎日や


(評)
山と積まれたカラの植木鉢。よく目にするものですが,その植木鉢に注いだ愛がこの詩を生みました。使ってくれてがない。がまん,がまんの毎日や,が現代の一面の譬喩(ひゆ)になってもいるようです。


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