特選 「背中」

開出今町 上田洋平


ヒトは
直立二足歩行する動物なので
背中はいつも
誰かのために空いている

うたは
背中合わせでうたうのがよい

共鳴する背中

伝えあう背中

よろこびを掛け算し

かなしみを割り算する

あたためあう背中
いたわりあう背中

人体でもっとも広いぬくもりの面積
人体でもっともいつわらない背中

おまえがよろこびのとき
おまえがかなしみのとき
わたしはおまえに背中をかそう
わたしがよろこびのとき
わたしがかなしみのとき
わたしはおまえの背中をかりる

ここに座って
おまえが海を見ているときに
わたしは山を見ていよう
そして世界は
わたしたちを介して出会うだろう
背中で


(評)
「お前が海を見ているときに わたしは山を見ていよう」これを最高の協力の体形と捕らえた発想は新鮮でした。もう一篇の「雲のうえにて」も機知に富んだみずみずしい佳篇でありました。


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