特選 「季節の宅急便」

西今町 角田祐子


通りすがり垣根の向こうから
ふいに漂ってきた 白梅の香り
庭先にはぷっくりふくらんだ日だまり
さくら草 パンジーが
ふるふるっと葉先を伸ばし
風はまだシンのある絹の肌ざわり

路地を曲がると
お年寄りが背を丸めてプランターの手入れ
今日はいつものショールは見当たらず
首に巻かれているのは
ベージュに水玉のスカーフ

私は
忘れかけていた用事を思い出し
急に小走りになる
影も小踊りしながらついてくる

次から次へと配達される
一瞬,一瞬の季節の「句」
印鑑もサインもいりません
あなたの手元に届いたら
すぐに開いて 新鮮なうちに
ご賞味下さい


(評)
「風にはまだシンのある絹の肌ざわり」はいい。慌しく移り変わる春の,色・形・香・余さず受けとってくださいとの思いを「宅急便」になぞらえた童心が愛らしい作品を生みました。硬質の詩を好む選者には不満でもありましたが。


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