総評
初々しい挑戦、達者な出詠など、九九名、二九三首は多岐にわたり、読み応えのある作品が多く見られました。
優れた詩質・歌材を取り上げながら表現技法が伴わず惜しまれる作品のある一方、素材の切り込み方、掘り下げ方に心が残る作品など採択には苦慮しました。
一首の構成上、回想や身辺の触目に止まらないように、また、類型から脱け出すことなど作歌上の今後の課題を感じます。
作者ならではの発想で、個性豊かな現代短歌を目指してご精進下さい。
(木村光子)
本年は昨年より三十一首多く応募があってうれしい。次に作品のレベルも向上しているように思われた。つまり、歌になっていないものは全くなかったのも喜ばしい。従って作品を選するにあたり、甲乙つけがたく迷ったが、最終的には作者の存在感と現実感の有無を尺度とした。高齢化が進み、社会の不安と重なって、どうしても作品が暗くなりやすい。そうしたなかで自己がどのように生きているのか。その辺のねらいがテーマとなるだろうが、一人ひとりの生き方が異なるように、作品の上でそれが出てこなくてはなるまい。いわゆる「そうですか歌」否定のためにも、自らを見つめ直して努力してゆくしかない。つねに努力してゆけば必ず道はひらけてくる。芭蕉の「不易流行」こそそれを示すものだろう。
(小西久二郎)