詩 市民文芸作品入選集
入 選

桜がゆ
南川瀬町 谷 敏子

義兄(あなた)が不治の病に倒れて半年
日一日と衰えを見せながらも
生ある事だけを信じているあなたに
今 私は
雪平に桜の塩づけをひとひら入れて
コトコトとかゆをたいています

米がかたちをくずしても
さらりと煮とけず
箸の先にまつわりつかぬよう
湯気がたっていても
のどもとを通る頃には
いっきに流しこめるような
かゆをたいています

なぞりたくない昔も少しはあって
内側で連なる悔いを
ほんのり紅色の上澄みから
苦みと一緒にのみこみ
遠くもないあしたが
別れの朝だとしても

ふっとひとふき
春色の湯気のあたたかさで
ほほえんで見せます


( 評 )
心やさしい作者の心情がよく読みとれるが、いささか甘さに流れたきらいもある。三連目を少しふくらませ、多少のことばの刈り込みもしてほしい。

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