詩 市民文芸作品入選集
入 選

神様だって
日夏町 重田 宏明

神様だってたまには
気ばらししたくなる 昨夜(ゆうべ)
パジャマに着かえる前
僕のポッケには五つチョコレートがあったのに
今朝みると
二つへって三つしかなかった
だが 僕はすぐに理解できた
つまり神様が(人間だって自分の神様をもっているのだから)失敬なさったのだ

神様だってたまには
気ばらししたくなる いつだったか
スーパーに買物に出かけた時
憩場(いこい)のゆったりした椅子にかけて
陶然とアイスクリームをなめている老人を見た
見ると日頃見なれた胴着(チョッキ)をきている………
やっぱり神様だった
余りに恍惚とし後光さえさしていたので
僕はおどかさぬようにわざとその前を
そ知らぬ顔で通りすぎた

神様だってたまには
気ばらししたくなる 僕がたまに小用で
出かけようとすると決まって留守番をかってでる神様が………
なぜかいそいそとするのだ
だがその譯はすぐにわかった
たまたま予定より早く帰った僕は
僕の部屋のタンスから スーツやシャツやネクタイを出して
とっかえひっかえ脱着し
鏡をのぞきこんでいる神様を見たのだ
神様だってたまにはお洒落がしたくなる


( 評 )
実在していながらすでに此の世を解脱しかけている「神様」をユーモラスに作品を仕上げているが、一方作者の内面のやさしさを感じる。「神様」とは、戸惑っている読者を作者は片隅から覗いているようだ。

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