詩 市民文芸作品入選集
特 選

春へのいざない
西今町 角田 祐子

日射しが
高くなるにつれ
しなやかになってゆく
ネコの肢体

陽だまりに
身を埋めていたかと思うと
すっくと立ち上がり
視線はきっぱりと遠くへ投げかけ
耳は近江に山々の雪解けを聞いているのか
湿った鼻先をゆるい風にのせ
しきりに何かをかぎわけている
五感が目覚め出した瞬間

ひょいと塀に飛び乗り
垣根を自由自在に往来し
低姿勢で足音を忍ばせ
獲物をねらってはもて遊ぶ

長続きはしない小気味よい興奮
あてどもない衝動
あどけないしぐさ
花冷えの闇の中を
くぐり抜けるたびに
ネコは春をやさしくひっかきながら
やがて現実の営みに
深くツメをたててゆく


( 評 )
おだやかな語り口ながら猫の行動・肢体から作者は適確に春をよみとった。この作品の場合地名記入が生きている。終行五行の作者のするどい感覚を感じた。

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