随筆・評論 市民文芸作品入選集
特 選

フリーマーケット出店の一日
平田町 三宅 春代

 「どれでも十円、どれでも十円ですよ、割ったところで十円、十円。」

 と日頃おとなしいTさんが声を張りあげている。ビール箱の上に板を置き、そこに並べられた瀬戸物を一生懸命、足を留めた客に売ろうとしている。私は中年のカップルが目を留めた布団乾燥機を、「これ一つあると便利ですよ。お布団を乾かさなくても湿気をとってくれて、気持ちがいいですよ」と、家には無いのにさも使って重宝しているといった調子に宣伝する。次は値段の交渉だ。「五百円でいかがでしょう」「もっと負からんのかいな」とおじさんが値切る。「これ、新品で買うと『万』なんですよ。お買い得ですよ」そしたら横のおばさんが「このシャツ一枚つけて五百円にしてよ」と又違ったかたちで値切ってくる。木綿のチェックのシャツ、二百円の札をついたのを持って見せる。Tさんとチラリと目で相談、交渉成立。二人は値切った甲斐があったと、満ち足りた表情で、袋の中におさまった乾燥機とシャツを持って去っていく後姿を見送る。

 毎月一回、彦根市と実行委員会が共催のエコロジーマーケットに出店したり、買物に行ったりして利用している。朝、九時から受付というのに、九時前から早くも沢山の車が売物をつんで受付をすませ、指定の場所でシートを拡げ、品物をならびかけている。私達スタッフ三人、大急ぎで開店準備を始める。こんな時、若い男性の助人はありがたい。スタッフのOさんが軽トラで、引越しする家から貰ってきた瀬戸物、衣類、道具類。日頃私共のふれあいの場、サロン「いこいのへや」へ理解と協力のかたちとして、寄附された品物を運び並べてくれる。商売をしているOさんは、値札の付け方や並べ方も工夫してうまく、感心して見とれてしまう。

 さあ、十時近くになると、買物客もふえ賑やかになる。近江高校跡地の広場は、お天気のよいのも手伝って盛況だ。「勝負は午前中。」という事が、再度出店して、体験の結果得た知識だ。流れ歩いている客が、足を留め品物を手にとった時が勝負。商品のPRをして薦めるが、矢張り縁のない時は売れない。瀬戸物、道具類は売れず、もう一度持って帰るのが造作なので、少々値を下げても売って帰りたい。「私の所も売りたいくらい食器はあるんやけど、つい安さにつられて買ってしまうわ」と西洋皿十枚を百円で買って、重そうに持ち帰る主婦、財布の中味を見せて値切る客。さまざまの人間模様が売り主と買い主との間で、品物をはさんで展開される。

 その間に他の店の情報も仕入れておかねばならない。客が途切れたとき、交代で他の店を覗きに行く。Tさんが「うちの瀬戸物が一番安いわ」と言って帰ってきた。「そりゃ、十円だものね」と応答する。若い外国人のカップルや家族づれも多い。彼らも徹底的に値切る。そしてよく商品価値も知っているのに驚かされる。他国での暮らしはえらいし、辛かろうとつい甘くなって安くしすぎてしまう。でも嬉しそうな表情を見ると、「これも国際親善の一つ。まっ、ええか」となる。

 昼頃になっていくらぐらい売れたか、十円、五十円、百円玉、千円札がチラホラの紙箱の金庫の中を数えてみると、六千円余り。ここから場所代と、三人の弁当代を出費すると残りはしれている。三人が朝早くから出て来て半日つぶして売った儲けは四千円余りだ。

 先程から何度も、私共の店を行ったり来たりする女性がいる。隣の出店の人が「あの人はプロで、一番安くて利口なものを仕入れて又売るそうよ」と囁く。「ヘエー、そんな手もあったのか」と思うが「それなりの労力と頭を駆使しているのだから、それくらいの報酬があってもよいのでは?」と返す。

 そろそろ疲れのムードが漂ってきた午後二時過ぎ、ボツボツ仕舞いかける店もいる。片づけかけに値切ると安くしてくれる、という風評もあって客足は途だえない。わが店も瀬戸物は大体売れて、片付ける量もガクンと減った。シートや腰かけも積み終り、残り物を運んで一日が終わった。

 このエコロジーマーケットは、友人のYさんが、生活環境を考えるための一手段として、自宅の敷地の一部を開放、「夢畑」として出発した一つのイベントである。それに行政の支援も得て、ますます盛んになってきている。無駄なものは買わず、再利用し資源を活用、不用品が間にあって再度お役にたつ、環境問題に一つの大きな示唆を与えた、といっても過言ではないと思う。それに売り主と買い主のコミュニケーションも、これまた楽しい。

 青空のもと、疲れは残ったが、満ちたりた一日であった。


( 評 )
大量生産、大量消費の時代を嘆き批判することは出来ても、それだけでは問題の解決になりにくい。自分自身がそういう世相の誤りを否定する第一歩を踏み出すことが大切なのだと思う。筆者はその歩みを何の気負いもなく、楽しげに歩み始めている、現代社会のもつ課題とその解決への道筋を実践を通して示した佳作である。

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