詩 市民文芸作品入選集
入 選

老いの楽しみ
下矢倉町 勝見 久子

私は本が好きです
戦後の貧しい時
兄さんが 通勤の電車で読んだ
サンデー毎日を
初めて読んだ

毎週買った兄さんに
週末まで待ち切れず
夜だまって借りた
ページをめくる音に
やかましいと怒られた

一晩に全部読み終える
たまに 時代物の本も
読ませてもらった
怒られても 心はやさしかった
兄さんは もういない

結婚後は
本との縁はなく
商店に勤めて
夜は内職に働いた
そして老いを迎える

少しの畑仕事と 気が向けば
ミシンもする
動く図書館に
好きな本を借りて
読むときが
至福の時です


( 評 )
ひとつの仕合せの形、読書さえままならない頃の、世代の回想だ。本離れの今日だが。

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