詩 市民文芸作品入選集
入 選

雪道を歩く
高宮町 木村 泰崇

 雪道をひとり歩く。空を見上げ、前を見て、
後ろを振り返り、とぼとぼととぼとぼとひとり
歩く。他人から見ればきっと随分と遅い歩み。
笑われ陰口も言われる。よろけたり、転んだり、
倒れ続けたり、その不恰好さに、時には無関係
のはずの親までが育て方が悪いからだと私のた
めに後ろ指を指される。
 美しいものをたくさん見てると遅くなる。見
てると立ち止まりたくなる。立ち止まると触り
たくなる。触っていると遊びたくなる。遊んで
いるとつい時の経つのも忘れてしまう。
 まっすぐに、どこまでもまっすぐに歩こうと
すると遅くなる。牡丹雪になっても粉雪になっ
ても吹雪になっても、車がスウーと通り過ぎて
行っても、すれ違った知人や友人から批判され
ようが、親に泣かれて腕を引っ張られようが、
それでも新雪を踏み締めまっすぐに歩いて行く
には骨が折れる。目的地には一体いつたどり着
けるのかもわからない雪道。
 心に堅く決めたその行き先を決して変えない
で初志貫徹で歩いていきたいと思う。だからやっ
ぱり遅くなる。
 東の彼方に見える家々の明かり。西の彼方に
見えるネオン。後ろ髪を引かれつつも、足を一
歩一歩前へ前へ。
 雪道の向こうには何があるのか?まだ若かっ
た頃は信じて疑わなかった。雪道の先には必ず
光り輝く巨大な宮殿が聳え建っていることを。
 けれども、この頃ふっと心配になることがあ
る。宮殿を見るまでにひょっとしたら遭遇して
しまうのかもしれない自分自身の凍死。
 それでも、この雪道。私の歩く道。雪道の向
こうにある消えることのない大いなる夢。それ
でも、それでも、歩いていこう、一歩ずつ、た
めらわず、おびえず、この雪道を−。


( 評 )
………先には必ず光り輝く巨大な宮殿が聳え建つ、のが唐突な印象だ。ひたすらな思い、は伝わるけれど。

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