父の手
幼い私の顔を撫でてくれたとき まるでサンドペーパーのように ざらざらとして痛かった 父の荒れた手
風呂あがりに黒い膏薬を 炭火で溶かして あかぎれの中に流し込んでいた 父の太い指
手の荒れは百姓の宿命であったが 皸あかぎれの癒えるいとまもなく 一年中土を相手に働いた父
父の美しい手は ついぞ見ることはなかった
微兵検査で甲種合格となり 軍隊で鍛えられた強勒な体で 八十四歳まで働いて逝った 父の今年は三十年忌