花の褥〔しとね〕
エンジェルス・トランペット
和名 天使のラッパ と呼ぶ花は
この秋 わたしの期待を
はるかに越えて 咲いた
毒性ガアルノデ 樹液ニ触レタ際ニハ
ヨク洗イ流スコト |
添え書かれてあると なお憑〔つ〕かれ
草丈10センチの か細い苗が
わたしと肩を並べるまでに
ひと夏を冠水と遮光に暮れ
花丈ゆうに30センチ
この名の由来の楽器と等身大
レモン・イエローの誇らしげな筒先の
数え切れない合弁花の重みに
花樹が撓〔しな〕う
わたしの空〔うつ〕ろを花に埋めさせてきた と
掛け過ぎた虚しさをみつけている |
冬が来る
まだ 気品を残す花たちが
朽ち垂れるまえに
ぱちぱちと ひと思いに鋏を入れる
しなやかな花のうなじを
手のひらに揃え
濡れた庭隅に そっと措〔お〕く
やがて 母をそうするように
そのつちを
花の終〔つい〕の褥〔しとね〕と
ひとりで 決めている
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