詩 市民文芸作品入選集
入 選

花の褥〔しとね〕
西今町 谷口 明美

エンジェルス・トランペット
和名 天使のラッパ と呼ぶ花は
この秋 わたしの期待を
はるかに越えて 咲いた

毒性ガアルノデ 樹液ニ触レタ際ニハ
ヨク洗イ流スコト

添え書かれてあると なお憑〔つ〕かれ
草丈10センチの か細い苗が
わたしと肩を並べるまでに
ひと夏を冠水と遮光に暮れ

花丈ゆうに30センチ
この名の由来の楽器と等身大
レモン・イエローの誇らしげな筒先の
数え切れない合弁花の重みに
花樹が撓〔しな〕

わたしの空〔うつ〕ろを花に埋めさせてきた と
掛け過ぎた虚しさをみつけている

冬が来る
まだ 気品を残す花たちが
朽ち垂れるまえに
ぱちぱちと ひと思いに鋏を入れる

しなやかな花のうなじを
手のひらに揃え
濡れた庭隅に そっと措〔お〕
やがて 母をそうするように

そのつちを
花の終〔つい〕の褥〔しとね〕
ひとりで 決めている


( 評 )
 エンジェルス・トランペットを愛する作者の心情がよく見える。七連目を強調して表現して欲しいと思うのは選者の願いだけだろうか。

もどる