詩 市民文芸作品入選集
入 選

寒の行
池州町 真野 美栄子

午前二時
一升瓶へ 寒のお水を頂く
寒さ味わいつつ 水道の蛇口をひねり

一年 火の災いから守っていただく
大切な行だよ
このお水 一年間傷まないの
なんぞの時の守り水になるよ

母が話しかけ 教えてくれた習わし
毎年 大寒 丑の日 丑三つどき
この声を聞く思いで 目が覚める

実家のあの土間に降り立つと
言いようのない
ひんやりした空気に身がすくみ
母の下駄の音が
とびあがる程 かわいた音でひびいた

つるべが井戸の水面に届くと
井戸がわに にぶく吸収される
籠った音は 霊気さえ感じ
身震いがおさまらなかった

一緒に嫁いできた
お水を汲み置くこの瓶
気のせいか うすく 透明になって

荒神さん 水神さんに手をあわせ
さりげなく 礼を説いた
母の思いが すけて みえてくる


( 評 )
 或る地方に伝わる行事が母から嫁いだ娘へと継がれてゆく過程と追憶、そして母への思いがよく分かる。多少刈り込みを試みられてはと思う。

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