手

柿しぶをいただいたので作り始めたのよ
祖母がこんなことをしていたの
粉を入れるのにボウルなんてなかったから
竹籠に　こんなふうに紙をはってね
春の訪れた山里にそのひとは座っていた
ぼかしのはいった和紙が　ストーブの周りで
ちぎれ雲や夕焼けや　花びらになって
散らばったり　身を寄せ合ったりしている
そのかたの膝にはいつも
綴れ織りや紬や絣の端切れが載っていて
生活に必要なものや　部屋を彩る
楽しい小物に形を変えていた
これは父のかたみの羽織りでね
こちらは母のひとこしだったの
そのひとのゆびさきがなぞっていく
布地の糸のうねのくぼみには
懐かしいひとたちがいて
たぐりよせたり
ほどいたり　つくろったり
裂いたり　継ぎ合わせたり
器用な手で　こどものころのふるさとの
肌にふれながら　至福のはざまを
縫いあわせていた
椿　ですね
白い和紙を貼った竹籠に　ちぎり絵の
紅が　あざやかに描籠れていく