詩 市民文芸作品入選集
選者詠

背中
石内 秀典

ときに
静かに立てかけられた張板の様な
背中に出会うことがあった
吹雪く日
火鉢を前に
黙って座る父

しんとした背中の向こうに横たわる
父の
膨大な時間の集積
その時間を解きほぐす糸口に向き合う前に
私はすでに
父の歳にせまろうとしている

従軍し大陸で戦った父は
ただ
南京に近い農家の庭先で
藁山を銃剣で突いて
隠されたいもを探し出したという ほか
人に向けて発砲したことを
一度も言わなかった

背中は
黙していた

父よ


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