はるかな道
浜街道から多景島が見える
湖沿いの小さな集落
古い桟橋に廃船が繋がれたまま
日に何本かの乗り合いバスが
まばらな客を拾って街へ行く
村はずれに六地蔵が並び
栴檀の木陰に墓地がある
湖に向いた最前列に
角錐の石碑が十五基
★印の下に若い兵士の氏名
太平洋戦争で戦死した者の墓
出征の日の壮行歌
葬りの日のしめやかな歩み
歓呼の声は天空の鳶の声
嗚咽は寄せて引く波の音
薮萱草の中に墓は鎮まっている
何処にでもある
何処にでもあった
人間の渾身の営みが
あっけなく風化されても
山と湖の間のわずかな土地に
それはあたたかく抱かれている
琵琶湖からの初夏の風
柿若葉のひかる荒神山
青田の中のはるかな道を
老婆がとぼとぼ歩いている
リプレーの画像のように
生き替わり死に替わり
ただおだやかな点景として
今日もとぼとぼ歩いている
他に行き場所があるなんて考えず
やさしい光と風を身にうけて
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