雉 子  
              山沿いの散歩道に  
                一つがいの雉子がいる 
                いつも雄が雌を探して 
                クワクワっといいながら枯葉の上を 
                小走りに歩く 
                鮮やかの赤と黒の羽根に 
                金色の羽根が混じり 
                難儀やなあといった風に 
                首をキョロキョロさせながら走って行く 
                そばを通る私のことは眼中にないらしい 
                麦秋 
                  麦を刈り取った後 
                  畝に火をつけると 
                  走るように火は燃え広がった 
                  すると遠くで雉子の甲高い鳴き声がする 
                  そうだあのあたりに巣があり 
                  ねずみ色の小さな卵が三つほどあったはずだ 
                  そのうち孵化するだろうと忘れてしまっていた 
                  けむりと炎の中で 
                  雉子は必死で鳴いている 
              思い出すのだ 
                地味な褐色の雌の雉子と 
                その背に立った真っ赤な炎 
                そして 
                母の言葉 
                  「雉子の雌は最後まで飛び立たない」  
              気づかずに 
                どれほど多くのものに 
                火を放ってきたか 
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