詩 市民文芸作品入選集
選者詠

雉 子
石内 秀典

山沿いの散歩道に
一つがいの雉子がいる
いつも雄が雌を探して
クワクワっといいながら枯葉の上を
小走りに歩く
鮮やかの赤と黒の羽根に
金色の羽根が混じり
難儀やなあといった風に
首をキョロキョロさせながら走って行く
そばを通る私のことは眼中にないらしい

  麦秋
  麦を刈り取った後
  畝に火をつけると
  走るように火は燃え広がった
  すると遠くで雉子の甲高い鳴き声がする
  そうだあのあたりに巣があり
  ねずみ色の小さな卵が三つほどあったはずだ
  そのうち孵化するだろうと忘れてしまっていた
  けむりと炎の中で
  雉子は必死で鳴いている

思い出すのだ
地味な褐色の雌の雉子と
その背に立った真っ赤な炎
そして
母の言葉
  「雉子の雌は最後まで飛び立たない」

気づかずに
どれほど多くのものに
火を放ってきたか


もどる