風 花
整形の医院を出るとき 「ヨンコちゃんでは」 と声をかけられた 長く呼ばれなかった私の名前だ いぶかりながら 「もしかして ゲンちゃん」 と聞くと 小肥りの老人は頬をゆるませてうなずいた
そうだ あのゲンちゃんだ 幼稚園の行きかえり 竹の物干竿をふりまわし とおせんぼうをして泣かされた あの炭屋のやんちゃ坊主だ
あれから何十年 杖にたよる私の姿に 長い空白の時間を確かめたにちがいない
二言三言 話をかわして別れた 背中に淡い視線を感じながら 風花の舞う小道を帰った
振り返らない