冬の金魚  
              一見すると清水が入った水槽に 
                金魚が一匹 
                底にじっと潜む 
              きみはかの方の形見 
              佐賀錦の鎧を着て 
                惜しくも寄生虫にやられ傷の瘤をつけ 
               一八〇度の視野の中で 
                一度も私を捉えない 
                自分以外に興味がないきみは 
                エサの時は媚びる振り 
                エゴで固めた金色の紅鱗を 
                密かに自負するもう一人の私がいる 
              夏に感染したヘルペスの膿を 
                どこに隠そうかと 
                ゆっくり尾ヒレを動かし 
                素知らぬ顔で移動する 
                冷たい真水に横たわるバクテリアは 
                絶え間なく吸われては出されして 
                無償の小石にこびりつく 
              きみは冬がとても似合う 
                冬眠していても許されるのだから 
              きみはかの方の形見  
                そして 
                私も形見のひとつ 
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