詩 市民文芸作品入選集
特 選

冬の金魚
東近江市今崎町 辰巳 友佳子

一見すると清水が入った水槽に
金魚が一匹
底にじっと潜む

きみはかの方の形見

佐賀錦の鎧を着て
惜しくも寄生虫にやられ傷の瘤をつけ

一八〇度の視野の中で
一度も私を捉えない
自分以外に興味がないきみは
エサの時は媚びる振り
エゴで固めた金色の紅鱗を
密かに自負するもう一人の私がいる

夏に感染したヘルペスの膿を
どこに隠そうかと
ゆっくり尾ヒレを動かし
素知らぬ顔で移動する
冷たい真水に横たわるバクテリアは
絶え間なく吸われては出されして
無償の小石にこびりつく

きみは冬がとても似合う
冬眠していても許されるのだから

きみはかの方の形見
そして
私も形見のひとつ


( 評 )
 不思議な感懐をもたらす作品だ。病んだ金魚が書かれているがそれが時に「私」 と入れ替わりながら泳いでいるように見える。「かの方の形見」という表現が様々のことを読者に考えさせる。

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