詩 市民文芸作品入選集
選者詠

父を運ぶ ――――― 認識票
石内 秀典

―― 歩三六  歩三六補  番一五七〇
乱暴に刻印された縦三センチほどの
楕円形の薄っぺらい真鍮の板
父の少ない遺品の一つだ

父は戦場から帰ってはきたが
その時からなにも話さなくなった
戦場に置いてきた父のすべてを
かろうじて私に繋いでいる
この認識票を
時折掌で確かめる

いつか
ベトナム戦争中に
死んだアメリカ兵の認識票が
掘り起こされ
大阪ミナミのミリタリーショップで
売られているという
記事を読んだ

私の唯一のネックレスは
擦り傷ばかりの認識票だ


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