手
初釜の茶会をひらいた
お正月気分の女性の中に 紋付・袴の外科医が入席した 途端座は引きしまった
濃茶が次ぎゝまわる 男は大振りの黒の楽茶碗を かかえるように持ち上げ 最後のひとすすりをゆっくり引き のみぐちを懐紙で清めた
無事茶会はすんだ 一人炉中の火を伏せながら あの弟子のことが頭をよぎった 黒いお茶碗を持ったときの 白くやわらかい手 深く切りそろえた爪
あの手で 彼は患者の素肌に メスを入れるのだ