詩 市民文芸作品入選集
選者詠

宇田 良子

初釜の茶会をひらいた

お正月気分の女性の中に
紋付・袴の外科医が入席した
途端座は引きしまった

濃茶が次ぎゝまわる
男は大振りの黒の楽茶碗を
かかえるように持ち上げ
最後のひとすすりをゆっくり引き
のみぐちを懐紙で清めた

無事茶会はすんだ
一人炉中の火を伏せながら
あの弟子のことが頭をよぎった
黒いお茶碗を持ったときの
白くやわらかい手
深く切りそろえた爪

あの手で
彼は患者の素肌に
メスを入れるのだ


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