「今日はなん日?」
朝一番にかゝって来た電話は
視覚障害のある君から
尋ねてくるのは今朝もまた同じ
「今日はなん日?なん曜日?」
柱にぶら下がっているカレンダーは
何の役にも立たず
テレビのスイッチを入れても
音声が聞えるだけ
一人暮らしの君は電話が唯一の頼り
すべてのものが美しく輝いて見えた
青春の日々も束の間に過ぎ
失った視力は永遠に返らない
二間続きの家の片隅に
半世紀も前から置かれた黒い電話機
指が覚えている数字の位置を
間違えなくなぞって
君はダイヤルを回す
歳を重ねた君は
近頃物忘れがひどくなって
お昼過ぎには三度目の電話
「今日はなん日?なん曜日?」
|