先生
「ポプラの先だけ
空に吸い込まれる
小さな水溜まりの中で」
これは私が中学生のときの詩
赤茶けたガリ版刷りをまだ持っている
と
先生に手紙をもらった
自分の将来が
そろそろ形を見せだす時期
ひとり帰る午後の帰り道で
水溜まりに顔を映しじっと見ていた
空を見上げずうつむいて歩く
水の中の大空は色のない小さな宇宙
見上げねば見えない青空よりも
水溜まりの中の小さな空が
私には似合っている
街路樹のポプラは堂々した幹を持ち
天に向かって枝を張り
濃い緑の葉っぱを光らせているのに
私のポプラはてっぺんの葉だけが
空に突き刺さっていた
酒に溺れている父
足が不自由で
いつも愚痴をこぼしている母
汚れたままの制服
級友との語らいには
ただ黙ってほほえんでいた
五十年ぶりに逢った同窓会の席で
大きな水槽の熱帯魚になっていたね
先生はそう書いて下さいました
先生
今の私は顔を上げて
高い空を見つめて歩いています
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