詩 市民文芸作品入選集
特 選

ぬくもり
池州町 真野 美栄子

人さし指と親指で ひとつまみ
刻みたばこを キセルにつめ
火鉢の鉄びんを ずらし
スパッーと ひと音
ゆらぐ煙

待ちかまえて
父のあぐらの中へ
すこっと 入り
あおぐように見る

まあるい煙の輪っかを
次から次へ と作り
どうや、 と
目が笑う

時おり 大きな手で
頭をなでられる
心地好い 居場所

いつの頃からか
あの具合いい くぼみを
腰かけたり、 座ったりする時
さがしているのに みつからない

ふたつとない 父のあぐら椅子は
輪っかの煙の中
ぬくもりを 包んだまんま
ほんわかと 漂っている


( 評 )
 大正期か。 父と子の至福のひととき。

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