詩 市民文芸作品入選集
入選

粥をたく
南川瀬町 谷 敏子

夫の枕辺に
丸い石油ストーブをおき土鍋をのせ
粥をたく
さらりとした粥をたく

フツフツと米がおどり
かたちをくずしてほどけてゆく
ねばらず 煮とけず
箸の先にまつわりつかぬような
さらりとした粥をたく
上ずみに湯気がなくとも
中はほんのりの温かさ

雪のような白いさらりとした粥が煮上りました
少しの患いで薄くなった背を丸めて
夫は粥を
さらさら音をさせ口にはこぶ

春が早目に来るように
菜の花を椀の中にそえました


( 評 )
 一椀のお粥によって夫婦愛が静かな形で表されている。殊に「薄くなった背に」が病夫の姿をよくとらえお粥に菜の花を添えると言う妻の心くばりが春への期待につながっている。

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