早春
久しぶりに 晴れあがった朝
調子にのって 言い過ぎた言葉が
新聞を読んでいる
夫の背に 滲み出てて
「湖を見に行って来るね」
謝れないまま 声をかける
「ほな 俺も」と応じてくれた
首のすくむ北風が 沈んだ心が
遅れまいと漕ぐペダルを
なお重くする
道の先に 見え出した
湖は 深い深い深みどり
浜に降り立つと
向こう岸から湧き起るような白波が
湖の色をより一層深め
西江州の山並み 家々が
迫るように 近くに押し寄せてくる
いつにない 猛猛しい湖の光景に
息をのみ 黙してたたずむ
徐々に 胸に入り込んだ
湖のパノラマが
ゆっくり ゆっくり ひろがり
幾重もの 白波に押してもらうように
「朝は ごめんね」
「何がや」と 問う声は
湖の色そのままで 包んでくれて
わだかまりを 波に流してもらった
波と風に ザワザワと
はやしたてられる思いで
浅き春先に輝く銀輪に 手をかけた |