詩 市民文芸作品入選集
入選

二人
日夏町 小林 勝一

背中に寒気が忍ぶ
薄い布団の夜明け
殺し屋があぶれて
寝ぐらに帰るころ
優しい女は「ただいま」と
静かに帰ってきた

部屋着に代えて
化粧を落としても
女は十分に美しく
若さに満ちていた
優しい女は 「ラララ・・・」 と
ハミングしながら米を研いだ

売れない絵描きは
赤にこだわっていた
冬眠の母熊が
二頭の仔を生んだ夕
巣穴の樹の洞の
落ち葉の残りの赤に

たった一枚残って震う
透き通るように赤く
琥珀の茜に
葉筋の静脈の赤い糸
絵描きの目は恋焦がれ
筆を持つ指は震えた

とんとん包丁
あれは葱だ油揚げと
味噌汁の匂い炊飯の湯気
絵描きは起きる蒼い頬
優しい女は 「おはよう」 と
左利きの箸で納豆を混ぜた


( 評 )
 新しい感覚を持ち構成も良く出来ていてその雰囲気も分かるが、四連目の後行二行及び「左利きの箸」は何を表現しようとしているのか一寸掴み難いのが誠に残念である。

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