裏窓
一すじの道が見える窓のカーテンを開け
行く人を
ぼうーと見つめる日が多くなった
昨日までしっかりしていた老人が
杖をついて歩いている
郵便局の配達人と宅急便のバイクが
すれ違って行くのに
子供の声はしない
この道を
築城四百年の祭と桜に誘われ
観光客がはしゃいで通る
中年すぎの女たちは
黒いレースのパラソルをかざし
うしろ向きでしゃべったり
年には不似合いなロングスカートを
風にひるがえしたりして
絵としたら
「華やぎの窓」とかして
美しいかも知れない
だが私はその絵の中には入りきれない
誰かは言った
人間百二十才まで生きられる と
そんなこと不要だ
逆縁の身には
空しく耳をかすめるだけ
明日このカーテンが閉じたままなら
私は走っているのだ
手にあふれる思い出をかかえ
あの亡娘〔むすめ〕のところに |