詩 市民文芸作品入選集
選者詠

裏窓
宇田 良子

一すじの道が見える窓のカーテンを開け
行く人を
ぼうーと見つめる日が多くなった

昨日までしっかりしていた老人が
杖をついて歩いている
郵便局の配達人と宅急便のバイクが
すれ違って行くのに
子供の声はしない

この道を
築城四百年の祭と桜に誘われ
観光客がはしゃいで通る
中年すぎの女たちは
黒いレースのパラソルをかざし
うしろ向きでしゃべったり
年には不似合いなロングスカートを
風にひるがえしたりして

絵としたら
「華やぎの窓」とかして
美しいかも知れない
だが私はその絵の中には入りきれない

誰かは言った
人間百二十才まで生きられる と
そんなこと不要だ
逆縁の身には
空しく耳をかすめるだけ

明日このカーテンが閉じたままなら
私は走っているのだ
手にあふれる思い出をかかえ
あの亡娘〔むすめ〕のところに


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