詩 市民文芸作品入選集
特選

ふたりだけのおしゃべり
東近江市今崎町 辰巳 友佳子

そんなこと言うてたら
幼い頃のセミのことを思い出したわ
へんな親切心出したらあかんな
朝早よう起きて隣の神社に行ったんや
そしたらちょうど脱皮してるところで
茶色の鎧から白いもんが
ちょこっと見えて
あんまり端で見てたからやろか
ちっとも動かんようなって
じっとしてるんや
こっちはどんなもんが出てくるか
待ってるのに
ぴたっと止まってしもて
疲れたんかと思て
茶色の皮をむきはじめたんや
むきおわってみても動かんのや
へんやと思て帰って
おばあちゃんに見せたんや
そしたら
死んでるって
七年間土の中に生き
地上に出て一週間の命
こっ酷く怒られましたがな
今でも夏が来てセミが鳴くと
切なくいやな気持ちになってくるんや
受験生の夏だけやなくして
あのセミを思い出すんや

あんたは昔から苛〔いら〕ちやったんやな
何でも時期ちゅうもんがあるんやな
待って待ってそれでも待ってみる
そのくらい待ってもええんちゃうか
今のあんたにも
さあ
セミの供養に
もう一杯どうや


( 評 )
 会話だけの構成ながら男二人のその場の雰囲気が良く表現されている。方言の持つたのしさ、題名もこの作品に適当であり終行二行に味がある。

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