応募作品二〇四首の大半は日常身辺に取材、 生活に根ざす触目が丁寧に詠まれている。素材に不足はない。
　しかし、総じて作品の多くは詩性、共感性を喚ぶ点で疑問なしとしない。共感性ひとつを取り上げても、作者の心と目が十分に注がれたかを問いたいのである。歌を詠み、同時に読者として自らの作品にどう向き合ったかということである。この通過点の対処が作品の詩性、質の向上を決定するといっても過言ではないからである。
　勿論、これ以外に、詠む基本として歌材の選定、表現・表記さらに感性や宇宙観の自在など大切な要素が多いことも忘れてはならない。
　今年に限って言えば応募数の激減は衝撃であった。ひとつの課題ではある。

　先ずおどろいたのは応募者が昨年より大きく減少していることである。なぜそうなったのかは不明だが、忘れていたのか、老いて作れなくなったのか。それにしても極端すぎるのではなかろうか。といって作品はどうだったのかというと、佳い作品はきわめて少なかった。恐らくみな五年十年と作っている人だろうが、本当に佳い歌とはいかなるものかが、はっきりわかっていないようにさえ思える。というのは作品が日常茶飯事や生活のひとこまの説明に流れて、短歌の掃情性や余韻の把握に至っていない。小手先や頭のなかで作った弱さがみえる。もう一度短歌の本質というものを確認してほしい。作るのはあそびではない。全心身を傾けてのぞまねばならないし、常に短歌は自己の生き方、生命の問題であることを忘れてはなるまい。

　総じて歌のポイントの絞りきれていない歌、常套的な表現の歌など、特徴に乏しい歌が多く、佳作に入った歌と入らなかった歌との間にそれ程の差はみられない。また、余り一般的でない漢字の使用は避けたいし、動詞、助詞の使い方に一考を要すると思われる例もみられた。よく言われることであるが、歌を作る者の心得として、辞書を傍らにおくことは大切なことである。