詩 市民文芸作品入選集
 入 選 

月夜柿
南川瀬町 谷敏子

村はずれにいつ頃から植えられたのか大きな柿の木があった
四十年もの前この柿の木のあたりで
満月が近づくと月のあかりで
若者達が集って運動会の練習をした
汗ばんだ肌には
細く流れる風はここちよく
のどの渇きを柿をもぎとって口にした

満月に照らされた柿の実は
青い柿も 赤い柿も
今宵だけはとろける甘さになる
月が欠けると
少しづつ甘みが抜けもとの渋さにもどる
若者達はその甘さに酔っていた

満月の日ふるさとに帰った
月あかりに皓々と照らされた柿の木があった
大木で鈴なりになったこの木も
自然なふりして
わずかな間に年老いてしまった
木の枝先に数えるほどの柿の実があった
今宵もさぞ甘かろう

いつの間にか年を重ねてしまった私に
しみついたしぶを
ぎゅっと絞ってぬぐい去りたい
月の満ちているまに


( 評 )
満月の夜だけ甘くなる柿の実。満月の夜、その木に集まる若者達が甘い柿の実を食べる。夢幻の世界のようなおかしさが、この作品を詩にしました。

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