童話のように
遠い むかしの三十(みそ)日
僧侶の父は
寺の縁に 大きな鉄の花瓶を
十数個ならべて
松や笹、黄菊や赤い南天の仏花を生けた。
「もうすぐ お正月さんが 来やるでな」
「ふーん どこから 来やるの」
「あの山 二つ三つ越えて 来やるのや」
居並ぶ 姉弟(きょうだい)たちに
小春日和の 童話のように語った。
黒いスカートの小僧さんかいな
それとも ひげ仙人かな。
遠い尾根の杉木立をみつめながら
きっと あの山かげにちがいないと
ひもじい胃袋も忘れて
そのまんま信じて うなづいていた。
それから ずうっと
いつか だれかに
あの小さな童話を語りつぎたいと
帰郷の度に
あの木立をさがしている。
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