車椅子での登城!
平成の大改修でよみがえった国宝・彦根城を一度みたいものと、かねがね思っていたのですが、この度市の関係者の粋な計らいで車椅子に乗ったまま彦根城を間近で見せてやろうと言うことになり、市の福祉に早速申し込みをして、その日の来るのを楽しみにしていました。
高校生のころまではたびたび城山(金亀山)にかけ登り、城山から周囲を遠望してはその雄大さに感激し、母なる琵琶湖を眺めて将来に向かって胸を膨らませ、甘ずっぱい青春時代を謳歌したものでした。開国の父・井直弼公に思いを馳せたり、茶の湯の世界を通して教えられた「一期一会」を座右の銘として、今日まで過ごして来たような気がします。
今回皆様のご協力で四十数年ぶりに車椅子に乗ったまま、城山を横断する事となり、この日は十四人の車椅子使用のお年寄りと、身体障害者が参加させていただく事になりました。市内の高校・中学生のボランティアの皆さんと、市の関係者などの応援を得て、車椅子に乗ったままかつぎ上げていただいたのです。私など68キロの巨体を七〜八人の人が交替しながらかつぎ上げてくださり、かつぎ手の皆さんのご苦労は大変だったと思います。
金亀山公園側の黒門から山道を登り始めたのですが、鬱蒼と生い茂った樹木の間からこぼれる陽の光は、もう秋の風情を漂わせていました。さわやかな秋風に吹かれてと言いたいのですが、担ぎ手の皆さんの激しい息づかいと玉の汗を流しておられる姿を見て、気の毒で申し訳ないやら、思わず手の合わさる思いに駆られるのでした。
特に中学や高校生諸君の真剣なサポート振りには感激してしまいました。中にはいわゆる茶髪の男の子やピアスをした学生さんもいましたが、玉の汗をかきながら一段ずつ黙々とかつぎ上げてくれる姿には、敬服に似た感情が走るのでした。
人は決して外見で判断するものではない。彼らは心優しい殊勝な気持ちの若者たちなのです。とかくうわべだけで判断し、ともすると誤解しがちになる自分を恥ずかしく思うのでした。
天守閣広場までの急坂と高い石段やガタガタ道を、嫌な顔ひとつしないで笑顔でとうとうかつぎ上げていただき、車椅子で感激の登城となりました。天守閣前の見晴らし台から彦根市街はもとより伊吹山・鈴鹿山系と目の前の佐和山を見、彦根港・プリンスホテルから長浜方面を見渡す眺めは素晴らしいの一語につきます。琵琶湖に浮かぶ竹生島がもやに霞み、その向こうに湖西の山々が連なっている眺めは、まるで一幅の水墨画を見るようでした。天守閣前の茶店も40数年前の記憶にある茶店と少しも変わりなく、懐かしい思い出が蘇ってきました。
大改築になった天守閣が金の鯱と共に白壁がまぶしいばかりに栄え、さすが国宝「彦根城」ならではのたたずまいです。この日はおりしも観光シーズン幕開けで、たくさんの遠来の観光客でにぎわっていました。懐かしい太鼓門や天秤櫓を仰ぎ見つつ、表門へと降りて来たのですが、下りの方がかついでくださる皆さんには大変だったようです。
この間約一時間半の行程でしたが、感謝しきれないほど皆さんのおかげさまをいただいて、無事に城山横断を終えることができました。
久しぶりに太陽のオゾンを全身に浴び、日焼けしたのではないかと思うほどで、全身がいつまでも火照っていました。
その日の夕方、テレビニュースで見たという京都の友人が電話してきて、「彦根市にはすごいことをやってのける、やる気のある人々がいるね。姿を見て大変羨ましいと思った。」と話していました。
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