詩 市民文芸作品入選集
 入 選 

かりそめに
大藪町 西野みどり

時を違わぬ桜の花
ぼんやり眺める花々の濃淡
ふっとあなたの視線を感じて
思わず一輪に焦点を合わせる
もうこんな場面で
あなたに会うはずはないのに

心のぶつかり合いや無視
笑いと涙で共に超えたピーク
大きな失策を庇ってもらった借り
花を持たせてあげた貸し
おたがいに手堅いライバルとして
牽制しつづけた数年

その日のあなたはいつになく
心を開いてくれたのに
あふれそうな言葉を呑み込んで
軽やかに別れたのは
街角で「やあ」っと笑ってすれちがう
たやすい再開を疑わなかったから
秋風の立つ朝何の前触れもなく
あなたは人生のゴールに疾走して行った
独り勝ちのあなた
生き残って認める私の敗北
言わず終いの優しい言葉を抱いて
花の中にあなたを探している私


( 評 )
心に残る人への挽歌であろう。その死者に対しての作者の心情はよく分かるが、そのやさしい言葉の中に今一つ何かを鮮明にする必要はなかったろうか。力量のある人故にそれが惜しまれる。

もどる