詩 市民文芸作品入選集
 入 選 

陽だまりで
南川瀬町 谷敏子

萌えぎ色のふきのとうが小さく芽ぶき
春が見えかくれして
陽のあつまる背中は
さびしくも
とかしてしまうくらいの暖かさで
指先だけは少し冷えたままです

昨日までの忘れかけていた時間が
不器用に絡まっているのを
ゆっくりほどいて
想い出をかすめながら
一針一針編んでいます
春色だったり 秋色だったり
幼子の帽子だったりしたものを
ちぢれた毛糸に蒸気を当てると
まっすぐ伸びてくれます

繋いでゆくほど馴染み合う色
馴染み合うほど暖まってゆく色の中から
遠いものたちの匂いが立ちあがり
指先を少しづつ温めはじめます


( 評 )
古い毛糸に再び「いのち」を与え人生の色を編みこんでゆく中年女性の心のうごきがよく表されている。殊に指の温度を心象風景としてとり込んでいるのがいい。

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