消えた山
昔
村外れに小さな山があって
ワラビやゼンマイを摘みに行ったと
祖母から聞いた
キツネやタヌキが住んでいて
よくだまされたと祖父が言った
東海道本線を通すとき
鉄道の盛土に土が取られて
山は永久に姿を消した
村人たちは
山の跡を開いて田圃を造り
麦作には稲を植え
裏作には麦を育てて
平和なときも
戦のときも
田圃を大切に守ってきた
長い戦争の時代が終わり
平和になった日本に
押し寄せてきた経済成長の波は
せっかく開いた田圃を
たちまちのうちに押し流し
土砂で埋め尽くした
埋立地には
やがて大きな工場が建って
多くの村人が働きに行き
そこで造られた物はトラックで
毎日どこかへ運ばれてゆく
工場の長い煙突から
今日も白い煙が立ち昇る
昔
あそこにあった山は
あのくらいの高さだったのだろうか
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