詩 市民文芸作品入選集
 入 選 

消えた山
稲枝町 山本正雄


村外れに小さな山があって
ワラビやゼンマイを摘みに行ったと
祖母から聞いた
キツネやタヌキが住んでいて
よくだまされたと祖父が言った

東海道本線を通すとき
鉄道の盛土に土が取られて
山は永久に姿を消した

村人たちは
山の跡を開いて田圃を造り
麦作には稲を植え
裏作には麦を育てて
平和なときも
戦のときも
田圃を大切に守ってきた

長い戦争の時代が終わり
平和になった日本に
押し寄せてきた経済成長の波は
せっかく開いた田圃を
たちまちのうちに押し流し
土砂で埋め尽くした

埋立地には
やがて大きな工場が建って
多くの村人が働きに行き
そこで造られた物はトラックで
毎日どこかへ運ばれてゆく

工場の長い煙突から
今日も白い煙が立ち昇る

あそこにあった山は
あのくらいの高さだったのだろうか


( 評 )
経済成長をしつづける現時代を一寸はすかいの目でみている詩である。それ以上に作者の山に対する愛着が殊に終行二行によく表されている。

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