詩 市民文芸作品入選集
 特 選 

宿り木
西今町 やまかみまさよ

 「このひろい せかいのなかでは
  安心して住まうところが ない
  幼い時は親に 嫁に行っては夫に
  老いては子に従って……」などと
呪文のように 唱えてきたが
それはむかしのことのように感じられ
母が自ら刻んだ しわの深さは
今の時代との落差にみえた

好奇心は なくさないで
食事は 美味しく味わって
ともだちと 楽しく語り合って
八十路の母をねぎらうことばが
あまりに多く ならないよう
心もち セーブしている

めったに口にすることは ない
が、嫁さんの事などグチることがあって
ハンドルを握り直すこともあるけれど
帰りたがらない兄の家へ
送ってゆく 道すがら
わたしたちを
つつむように見送ってくれる
土手添いの 河辺林の中

いつもは葉陰で 目立たないのに
大きく細く枝々を伸ばした
裸木のなかほど
春先の この時期にだけ
薄黄色の小花を咲かせ
ひっそりと まるまって
枯れた風な樹に よりそって灯っている
宿り木 のようであってもよいと
私は この頃思いはじめている。


( 評 )
嫁した娘である作者が、実母を兄嫁のいる家におくりとどける途中で見つけた宿り木。母もこの様であってほしいと祈る様な娘の心情がよく見える。

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