詩 市民文芸作品入選集
 特 選 

ふきのとう
西今町 角田祐子

あざやかな みどりを
小鉢の中に てらいなく置いて
今夜の食卓を引きしめています

噛みしめると
ほろにがさが走りぬけます

甘いもの 口あたりのいいもの
刺激の強いものがあふれる中で
忘れかけていたもの
心の奥にしまい込んでいたもの
目には見えない大切なものを
はっと呼び覚ます
そんな味です

スピード感が増した今の時代に
とうていついてゆけない父親を
たしなめるつもりが
つい ひと言
いらない言葉を吐き
「おまえ、前とちごうて
 きつう なったな」
そういう父親の言葉も
どこか弱々しく
少し腰を曲げて夕食の席を立ってゆく

このほろにがさも たまりません

まだ雪の残る永源寺から
摘み採ってきた ふきのとう
ほろにがさを含みながら
今年も春が私の前を歩いてゆきます


( 評 )
やさしい歌口ながら、ふきのとうのあのほろにがさを実父と娘である自分との関係に重ね合わせた。前にあげた「宿り木」の作者と同じく肉親ならではの感が素直によく表わされている。

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