生きる
冬の長いトンネルから抜け出した城下町 そこここに 春の匂いが漂いはじめた
久しぶりの陽気だ
私は心もとない体で 城郭へと歩行練習に 出かける
いろは松の間から見る中濠の水面 白鳥が 一羽悠然と泳ぐ もう春のきらめきだ
しばし見惚れる
その時 観光客が三々五々と 群れをなして追ってきた
装いは もうすっかり春だ 華やかだ
私は群れを避け 道端へと歩み寄る
ある人は腕が触れ合うばかりの近くを ある人は避けるが如く さっそうと通り過ぎて行く
瞬く間に 佐和口多聞櫓へと消え去る
私は一団を見送り 安堵する
儘ならぬ自分の体が つくづくと恨めしくなる あれほど元気だったのに・・・・・・
たどたどしい足取りで 再び歩を進める
ふと見上げた城郭の石垣
大きい石垣の小さな空間に 名も知らぬ雑草が一株 へばりついて生きている
どこからか風に運ばれ たどり着いた場がここだったのだ
雑草と言えども 生きるためには太陽と水と土がいる
だのに あの小さな空間で 厳しい環境と闘い芽生えたのだ
そして たくましく生きている
見落としそうな ありふれた情景が 無言で訴えている
障害の身でも意志が伝えられ 家族の協カもある
それにも増して ボランティアの温かい支援もあるのだ
愚痴は言うまい甘えまい 私は生きるのだ あの雑草の如くに
障害者しか解らない 夢もあるはずだ
生きよう明日にむかって 夢を追いつつ
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