田毎の月
ふと 私は思った
水温み土が湧く
耕して天に至るあの棚田の
大自然が画く素朴な景観
農を忘れかけた今
又 どこかで見直されて来た風情を
個々一枚一枚の姿は
実に不定形で大蛇の様に曲りくねり
中には大きな岩を抱いているものもあり
猫のひたい程のも
すべてが時代遅れのまゝに
それなりの位置で 角をけずり
その領域に合った姿で畦を作り
全体の調和を保ちながら
上段から下へと支へ助け合って
一滴の水も無駄なく保全される
整地し青苗が植えられ
心地よい露切り風を受けて育つ
そして頭を垂れる穂波の秋
人々はこの米を 菩薩様と呼んで来たのだ
長い歴史 そこに生きる人達によって
築き守られて来た棚田は
血の汗にじむ思いを深く秘めながら
苦労のしわを 今も
美しい粧に変へ続けているのだ
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