詩 市民文芸作品入選集
入 選

追憶
稲枝町 山本 正雄

最後に会ったとき君は
「今度帰るのは白木の箱や」と
ことも無げに言った
私はどきりとして返す言葉も出なかった

十六歳で海軍予科練に志願し
軍国少年がみんな憧れた
飛行機乗りとなった君は
すでに戦死を覚悟し
別れを告げに来たのではなかったか

一年後の南方戦線で
空中戦の花と散り
小さな骨箱に入って帰還したが
君は少しの悔いもなく
思い残すこともなく
若い命を国に捧げたのか
君にも輝かしい未来はあっただろうに

幼なじみの君と
一緒に撮った写真は
すっかりセピア色に変った
君が若し生きていて
ひょっこり訪ねて来たなら
どんな親父顔で
過去を語ってくれるのだろう

今はもう還ることもない
はるかな日の君の面影が
走馬灯のように蘇って
詮無いことを今日も思う


( 評 )
きな臭い現代にあって、少年時代の友との鮮烈な別れが悔恨のようなものとともによみがえってくるのだろう。「白木の箱」に戦慄を覚える。しかし、あくまでセピア色の追憶に終わってしまったのが惜しい。

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