詩 市民文芸作品入選集
特 選

転職
南川瀬町 谷 敏子

農作業を嫌って出ていった息子が
リストラされて帰って来た

作らなくなった田畑にハウスをたて
イチゴやホウレン草を植えた

「今日は晴れそうやで」
寝床から見送る父親は
不自由な手をかばいながら
ほほえんだ
母親はいそいそと
川魚のつくだ煮をたっぷりそえて
大きな握飯を作った

都会暮しを未練気に
茶髪の長い髪の毛をかきあげ
口笛をふきながら出ていった

夫婦は熱い番茶を音をたててすすった


( 評 )
巧まずして書かれているように見えるが、過不足のない優れた作品である。テーマも今日的で都会から帰ってきた息子への不安と安堵がない混ざった心情が見事に捕らえられている。二人の番茶をすする音が聞こえるようだ。

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