市民文芸作品入選集
小説
木下正実 畑 裕子 :選
 

 特 選 
西今町   桑嶋 ミキト
 
佳 作
開出今町   沢田 初枝
高宮町  

木村 泰崇



<総 評>

 小説を読む楽しみの一つは登場人物に感情移入し、その世界に引き込まれることだろう。応募作品はいずれも主人公の人となりを彷彿とさせる。沢田さんの「整形外科医と出会って」は病の経過が刻銘に記され、主治医との人間関係も素朴な筆致で描写され、好感をもった。些細なことだが、一部文字の記し方に留意してほしい。
 木村さんの「田園」はひと昔前の田舎の高校生の心情が細やかに描かれているが、高校時代の思い出、という範疇から脱していないのが惜しまれる。実力を感じさせる文章だけに小説としての企みを加味してほしい。
 その点、桑嶋さんの「魔性の湖」には企みがあり、斬新な発想の中に普遍的な父子の情が描写されている。息子を批判する父の言葉は鋭い。とはいえ、企むことは容易ではない。創り過ぎると嘘っぽくなる。虚と実が接点を持ち、リアリティをいかに現出していくかが、書き手の腕の見せ所であり、作品に向かう作者の姿勢かもしれない。

畑 裕子


 
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