夕陽の向こうに
夕焼け色に 雲も染めず
薄霞の西空
さほど大きくない 真っ赤な夕陽が
留まっていた きのう
寝たきりの老母が 瞼も開けずにいった
つむったままでも わかるでっ
あんたを まってたんよ
まいにち まってるんよ
帰えらんと
ずっと このまま ここに居てっ
前現代的な乗り物のミニ・バイクで
買い物メモと 母の駄々を
ポケットにしまい込み
さながら 湖中のブルー・ギルのように
追っかけたり
なにかに 追い詰められたりしながら
わたしは 走っている
和やかに時を演じ
苦労話を聞き出だしてくれる
訪問医の問いかけにも
早世の夫の病気のことを
おもい 風邪でしんだんよ と
五十年忌の今も 匿い続けている母
自分の年齢さえ違えるのに
きっと
かたくなに持ち続けて逝くのだろう
あの湖の向こうの
黒く沈む山並み
その向こうの
夕陽の彼岸まで |