詩 市民文芸作品入選集
入選

あの人は不在
東近江市 辰巳 友佳子

「あなたはいいわね
 お酒が飲めて」
あの人のいつもの口癖
今宵も熱燗を飲んでいると
無性に言われたい

小ぶりの陶器の杯で
くっと喉のくぼみに押込む
それでも
足を伸してもあたたまっていないところ
木綿シーツの感があって
あの人を美果だけにおわらせない

オリオン座が定位置につくころ
決まって日向燗がほしくなる
あなたの手作りの蕗味噌で一杯としよう
しまい忘れた鍋蓋が
ことこと音をたてないうちに
また一緒にさがさないか
あなたのカシオペア座を

日向燗…約三十度。ちなみに熱燗は、五十度付近。


( 評 )
 不在の「あなた」へ深い思いを伝えようとする一場の劇の場面のようだ。「カシオペア座」がなぜか郷愁を誘う。何気ない日常を切り取ってきて私はその中で遊ぶという境地か。ただ「あなた」と書き手の関係に混乱を起こしそうなので書き方に一考が欲しい。

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