詩 市民文芸作品入選集
入選

日夏町 小林 勝一

いっぱい心配事が溜まり
胸がどきどきする
仕事場のかすれ声
暴力的なあいつ

臍の緒のあたりが
冷や冷やと震える
かあっと熱が欲しい
燃える太陽が欲しい

雲を探す飛び乗る雲を
けむり色真っ白暗黒
駄目駄目茜だルビー色
助走を付けてルビーに乗った

せいせいした気分
肩ぶつけない空間
限りない無、無、無
見つからない地平線
貿易風が吹いて
ルビーの雲は流れ
オーロラ踊る先っぽに
吹き飛ばされた

雲のたまり場所
渋滞の雲、雲、雲
ひとりずつ人間が坐る
うつろなトンボの目

「えっ!」聞き返した
トンボの目はやぶ蚊の声
「戻りたい」とつぶやく
澄んだ涙を落とした

何日も経って
貿易風が止み
雲は解散した
回帰気流に送られ
元へ戻った男

魂はルビー色だった


( 評 )
 どこかへ逃避するために雲を探す、雲は貿易風に乗って遥へ、そこには作者の精神の自由さが書かれ読む者に爽快なリズムを感じさせる。作品のテンポがよく、帰って来た男をとがめたりしないでおこうと思う。

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