詩 市民文芸作品入選集
入選

老 骨
稲里町 川村 利男

昨日の寒さは格別骨身に滲みた
うなる風 目も口も開けぬ程の吹雪
仕上げを急ぐ庭の石積に追われ
無理して頑張り続けたが
九分通りの出来で遂に休息

後一日 お天気が助けてくれたなら、と
思いつゝ眺める翌朝の庭先
ほころびかけた白梅がじっと堪え
山茶花の紅が雪に震える
雪明りの空間には確実に春を恋うる
木々の冬芽もかすかに
その張力を意識し始めて頼もしい

田舎暮しに些の誇りを持ち
ほど  に食べて生き
心まかせの楽農、快遊、快眠と
気まゝを通す一徹者のよろこびわ
何んと言っても
この身を守り育んでくれる大自然の力と
健康体のお蔭様なのだ

八十に手の届く老体に
年甲斐もなく闘志が湧いて来た
好きな庭造りの道 鼻水すゝりながら
この雪消えたらもう一踏ん張りだ
お天道さんにまた笑われよう。


( 評 )
 心身ともに健康な「老骨」が雪をいとわず庭造りに精を出している姿がストレートに伝わって来る。そして雪の中で春を待つ木々を、愛情込めての観察している余裕が見える。読むものに“その心意気や良し”と思わせるいい作品。

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