詩 市民文芸作品入選集
選者詠

峠にて
石内 秀典

山に囲まれて
静まり返る街は
雪がうっすらと家々の屋根を被っていた
古い農家を
新興の瀟洒な家々が取り囲み
まるでくすんだ
がくあじさいの花のように見える

恩師の葬儀からの帰り
峠道から振り返る街は
家々が寄り添うようにつづき
人々の暮らしの匂いは
ここまでは来ないが
水底のように
静かだ

こんな隔離されたような街では
新しくやって来た人たちと
旧来の生活を守る人たちの間で
いつも緊張が続いた

先生はいつもその真中にいた
先生の微笑みは静かだった

家人は
見知らぬ多くの参列者に
頭を下げた

幾たびも越えたこの峠を
私はもはや訪れないだろう
雪に沈む街は
私の視界から消えた


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